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いろいろな事が有ったようで、辛い思いをした方も居ると思います。
しかし多くの先輩や仲間達がこの世を去りました。
供養も兼ねて楽しかった「東洋電具製作所」での思い出を語りましょう。
ローム株式会社の後輩達も頑張っています。先輩として暖かく見守りましょう。 
 
「東洋電具製作所」に関わりが無かった方はご遠慮下さい。


世界一のシェアを誇るLEDランプ

1:事務局 :

2023/12/22 (Fri) 14:17:41

https://bbs7.fc2.com//bbs/img/_897300/897275/full/897275_1703222261.jpg  発売以来、約半世紀、現在の「ローム株式会社」さえ知らなかった「東洋電具製作所」の伝統”LED(発光ダイオード)製品”の話をさせて頂きます。
 
 ロームでは、1973年にランプLEDを生産して以来、50年にわたって業界に先駆けた製品開発を行ってきました。実際にランプ製品の開発を開始したのは1978年(昭和53年)頃でした。その前はモールド形の小型チップLEDだけでした。その1978年頃どれだけの危ない橋を渡り、どれだけ苦心惨憺したかを開発した本人がお話しします。

 写真は、現在では”世界標準”となった「SLR-56」シリーズです。
2:宇梶 正弘(49年) :

2023/12/22 (Fri) 21:57:08

https://bbs7.fc2.com//bbs/img/_897300/897275/full/897275_1703315910.jpg  1978年(昭和53年)佐藤社長から「ランプを作れ!」という指令が舞い込んだ。そこで、購買に「LEDランプに使えそうな材料を探してクレ!」と頼んだところ、ヘンテコな物が集まって来た。松下電器(現:パナソニック)の下請けのメッキ屋からリード・フレームの試作品、社名は判らなかったが注型用のテフロン型、東芝の下請けの成型屋からLED用のキャップ、等々。意味不明な物も色々有った。

 「LEDランプ(現在は”砲弾型LEDランプと呼ばれている)」と言っても一般の方にはイメージが湧かないと思うので簡単に説明すると、「ガリガリ君」を小さくしたような構造の電子部品だ。二本の割り箸の先端にLEDチップを接着し、細い金線で配線するような感じで、ICやトランジスタと違ってリード・フレームを縦にして、端面にチップを銀ペーストで接着するのが特徴。

 そこで、先ず、テフロン製の型から試して見ようと考えたが、サンプルが一つしか無かった。せめて10個でも有れば試験的に製作できるのだが、テフロンの場合金型を製作しなければならない。試作の段階で大きなコストは掛けられないので、内作が可能な鉄製の型を製作する事にした。鋼鉄の丸棒に下穴を開け、先端を球形に加工したフライス用エンドミルで成形、それを磨いて鏡面にし、更にクロムメッキを施して、更に青砥で鏡面に仕上げる。そこにエポキシ樹脂を流し込んでLEDチップを取り付けたリードフレームを挿入、オーブンに入れて硬化を待つ。さあ~、「光るガリガリ君」の完成だ!。
 ところが、何をしても型から外れない。そこで「ハタ!」と気が付いた。エポキシ樹脂が強力な接着剤だったという事を忘れていた。見事な迄の「大失敗」だった。

 そこで、次に試したのがポリカーボネート製のキャップにエポキシ樹脂を流し込む方法だ。これなら、型から外れないという心配は無い。当然、見事に成功、光る「ガリガリ君」が出来た。それを、芦田部長の所に「出来た!、出来た!」と持って行った。

 実は、これが次の大失敗だった。
3:宇梶 正弘(49年) :

2023/12/23 (Sat) 16:28:22

 それから一週間もしない内に、何と「日立製作所」から大量の注文が舞い込んだ。まだ、試作も試作、品質評価も出来ていないもの。それを事も有ろうに品質に厳しい「日立製作所」に売り込むとは!。そんな事をする大馬鹿野郎は東洋電具製作所に一人しか居ない。

 「キャップ方式LEDランプ」の問題点は、試作段階から判明していた。先ず、キャップの材質がポリカーボネイトだったのでエポキシ樹脂の硬化温度を高くすることが出来ない。100℃以上に温度を上げるとキャップが変形してしまう。かと言って常温硬化の樹脂は使えない。そこで、アミン系の硬化剤と使った割合低い温度で硬化できるように樹脂を配合する必要が有った。すると、作業中でも徐々に反応が進んで、2時間程で粘度が上がって注入作業が出来なくなる。それとアミン系の硬化剤はやたら臭かった。凡そ量産で使えるもので無い事は、最初から判っていた。しかも、あくまで試作だったので、信頼性試験など1秒たりとやっていない。

 そんな物を採用した「日立製作所」の側にも、実は大馬鹿野郎が居た。それまでテレビのチャンネル切り替えは「ガチャガチャ」と回すのが当たり前だったのが、12個の押しボタン式に代わった。その事で、テレビ・リモコンが可能になった。それまでテレビのチャンネル切り替えはコタツの中から四つん這いで這い出して「ガチャガチャ」とやらなければならなかったが、リモコンでコタツから出ずにチャンネル切り替えができるという「大革命?」が起きた。それを年末の商戦の目玉にしようと企んだ「日立:キドカラー」、信頼性試験なんかやっている時間的な余裕が無かった。電球なら「玉切れ」の心配が有るが「LEDなら大丈夫だろう」と早トチリした奴が居た。要するに「日立製作所」側にも負い目が有った。

 案の定「キドカラー」の製造工程でLEDの点灯不良が発生したが、そこは「日本電装」と違って「頼むから何とかして~!」と泣きが入った。そこで、信頼性試験に使用する点灯治具に出来上がったLEDランプを並べ、遠赤外ヒーターで樹脂部分だけを加熱し、切れたものを除外するという「スクリーニング」を行う苦肉の策で逃げる事にした。勿論、そんな方法は邪道だが、背に腹は代えられない。そうして選別したLEDランプをLED製造部のメンバーが交代で毎日早朝に「日立製作所:岐阜工場」の守衛室に届けた。ところが、そのドタバタ劇が日立から「対応が素晴らしい」と逆に評価され、後々「日立製作所」の全てのLED製品を後の「ローム株式会社」が供給することになった。

 東洋電具製作所の最高権力者にして「最高の馬鹿」のお陰で、皮肉にも5ミリ径の丸形LEDランプは「東芝」の寸法と「松下」のリードが世界標準になってしまった。
 
 それがロームLEDのベストセラー「SLR-56シリーズ」の始まりとなった。
 
 SLR-56データシートを見る。https://fscdn.rohm.com/jp/products/databook/datasheet/opto/led/lamp_mono/slr-56-j.pdf
4:宇梶 正弘(49年) :

2023/12/23 (Sat) 20:19:01

https://bbs7.fc2.com//bbs/img/_897300/897275/full/897275_1703548017.jpg  関西の営業の誰かから、角形ランプのカスタム製品の生産を依頼された。サイズは2×5㎜の長方形だった。勿論、そんなキャップは何処にも無い。そもそも角形のLEDランプなんて見た事が無かった。

 エポキシ樹脂を型で成形する場合、「金属型」が使えないことは最初の「鉄ピン」で痛い目に遭っている。従って注型型(ちゅうけいかた)の材料にする樹脂は、エポキシ樹脂が接着剤として機能しない材料を選択しなければならない。候補は「軟質塩化ビニル」「ポリエチレン」「ポリプロピレン」「ナイロン」「シリコン樹脂」「フッ素樹脂」など、割合柔らかくて表面がツルッとした感じの樹脂だ。この中で100℃以上の高温に耐えるのは「ポリプロピレン」「シリコン樹脂」「フッ素樹脂」となるが、あくまで樹脂型なので耐久性は求めない。ただ、1回だけの使い捨てという訳には行かない、せめて10回位は使いたい。そうなると、価格が安い「ポリプロピレン」で型を作れば十分可能という結論になった。

 LEDのリード・フレームは7㎜ピッチの25連で1本としている。しかし、25連の樹脂型を作るより、5連の型を5個並べるという使い方の方が金型代が安くなる。そこで「5連のポリプロピレン型」を製作することに決めた。

 そこで、製作を依頼された2×5㎜の角形ランプの樹脂型用と、「東芝」のキャップから一刻も早く脱却しなければならない都合で5㎜径の丸形ランプの樹脂型用の射出成型金型を発注した。ネーミングは最初の大失敗の戒めとして「鉄ピン」の後継としての「PPピン」とした。「ピン」では無いのに「PPピン」としたのは、そういう理由からだった。

 次に決めなければならないのは一番肝心の「エポキシ樹脂」だった。そこで、幾つかのエポキシ樹脂メーカーに無理難題を吹っ掛けた。提示した条件は150℃以上の高温で硬化させる事、常温では反応しない事、透明度が高い事、熱膨張係数が少ない事、光の屈折率が高い事、等々。依頼した樹脂メーカーはすべて大手化学メーカーだった。その中で、トコトン食い下がって来たのが大手工業テープメーカー「日東電工」だった。そこで、この「日東電工」にメーカーを絞って「LED封止用エポキシ樹脂」として徹底的に共同開発した。

 実は角形ランプを製作する段階で思わぬトラブルに遭遇している。角形ランプの場合、丸形と違って「角(かど)」が有る。エポキシ樹脂を注入してリード・フレームを挿入し、オーブンに入れて硬化させると、この「角」の部分に気泡が残ってしまう。角が取れてまるで面取りのように見えるが、良く見ると気泡だ。この問題を解決するために、PP型に樹脂を半分注入し、真空ポンプで減圧して気泡の原因になる未充填部分の空気を抜くことを考えた。そこで、設備課に有った予備の真空蒸着装置用のロータリーポンプを盗んで来た。それと、ICのQC課に有ったガラス製の大きな乾燥器を「ちょっと貸して~な!」と言って盗んで来た。当時の東洋電具製作所では、「返せ!」と言われなければ自動的に所有権が移転するという暗黙の決まりが有った。何せ全社的に資産管理が出来ていなかったので、社内窃盗が横行していた。
5:宇梶 正弘(49年) :

2023/12/28 (Thu) 22:53:18

https://bbs7.fc2.com//bbs/img/_897300/897275/full/897275_1706598201.jpg  角形ランプを世に出し、5㎜径の丸形ランプも「東芝」横流しのポリカーボネート・キャップから脱却し、やっと矢崎信之さんの本業の信頼性試験が可能になった。そうなると、営業の連中も調子に乗って色々な話を持って来た。丸形では2㎜径、いや3㎜径、いや4㎜径とか、角形では1×5㎜とか、2×2㎜とか、中には三角形が欲しいとか。「お菓子屋じゃね~!」と言いたい程、色々な話が来た。色も「赤」「橙」「黄」「緑」(まだ、「青」は無かった)など、そこに明るくクリアな物とかボヤッとした物とか、エライ事になってしまった。そこで樹脂の色を決めなければ、「もっと薄い色」とか「濃い色」とか言いかねない。
そこで、一番美味そうに見える「豊栄フルーツ寒天ゼリー」(愛知県)の色に決めた。染料の配合を決め、エポキシ樹脂の硬化剤に染料を混ぜ、作業バッチ毎に色目が変化しないよう標準化し「日東電工」と取り決めた。その結果、LEDランプ製品の色は50年間も変更出来ずに現在も守られている。また、後発のLEDメーカーも同じ色調にせざるを得なかったために「ローム製LEDランプ」のフルーツゼリーの色が世界標準になってしまった。実は、この話は最近まで50年間も極秘扱いだった。そうしないと「LEDは食べないで下さい。」という表示が必要になるからだった。

 ランプ形状は5連の「PPピン」を作るだけの事なので、出来るだけ営業の好き勝手を聞くことにした。そうなると、サンプルを作るだけでも大変で、LED製造部開発1課は本当に「お菓子屋」のように、「仕込み」「焼き」「仕上げ」「包装」とか、何をやってるのか判らない状態になった。しかも、営業には冗談で「承認サンプルだけど売って来い!」と言ったら、本当に有償サンプルとして売った奴が居た。そんなこんなで、開発1課が売り上げを計上するという前代未聞な事が起きてしまった。
「ウ~サン」は「仕込み」と「焼き」、矢崎さんは「仕上げ」と「包装」を担当、信頼性試験どころか、ほぼ菓子職人になってしまった。さすがに「エエ加減にせい!」という話になったが、ほかにサンプルを作る部署は無いので続けるしか無かった。

 そんな「菓子職人」の仕事に勢を出していた頃、「パンチング・フレームを設計せよ!」と社長命令が下った。多分、重光さんが社長に「最近、職人仕事ばかりやってる」とタレ込んだんだろう。
何れは「やらんならん」と思っていたパンチング・フレームだったが、何しろ千万円単位の金が掛かる金型を作る必要が有ったので、「ウ~サン」からは言い出せない代物だった。そこで「社長命令」となれば話は簡単だった。早速、設計に掛かった。
 LEDランプのパンチング・フレームとは、帯状の金属板を写真のフィルムの様に送りながら少しづつ打ち抜いて作るリード・フレームで、かつ、チップを取り付ける端面にパラボラ状の反射器を作るという、リード・フレームとしては世界でも例が無い「超・超・難度」の打ち抜き金型を製作する必要有る。しかも、その板厚が0.5ミリというICのリードフレームの2倍の厚板を打ち抜くという化け物を作らなければならない。こんな金型は日本でないと絶対に出来ない。勿論、ロームの工作室では絶対に無理なのは判っていた。

 そんな事で、リード・フレームの設計は出来た。最後に「材質」の欄に何と書くかだ。そこで「ウ~サン」は「SPC-C」と書き込んだ。常識的には銅系の材料を使うが、何と「純鉄」とした。その後、世界一の高信頼性LEDになるフレーム材質が決まった瞬間だった。勿論、これがどう言う事なのかは、重光課長も芦田部長も佐藤社長も知らない。「SPC-C」の意味が判る人は、誰も居なかった。
 
 その後、「九州松下電器」から電話が入り、「あの材質では自信が無い」と言って来た。何とパンチング・フレーム金型の発注先は「九州松下電器」だった。「いや、オタクの技術なら絶対に出来る!」と励ましてやった。そして、ローム株式会社のLEDランプは、何と「松下電器グループ」を下請けにして邁進(まいしん)する事になった。
6:宇梶 正弘(49年) :

2024/02/08 (Thu) 15:59:20

 LEDランプ製品はICやトランジスタ、ダイオード製品と真逆の性質を持っていた。
 
(編集中)

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