世界一のシェアを誇る赤外線発光LED - 事務局
2024/02/08 (Thu) 17:04:46
「ローム」の赤外線発光ダイオードの歴史は意外にも古く、LEDを生産開始した当初から細々では有るが続いていた。当時は”フォト・センサー”用としてメタル缶(TO-Can)パッケージを使用した手造りだった。
このメタル缶にGaAs(ガリウム砒素)チップを取り付けた赤外線発光ダイオードとフォト・トランジスタを取り付けた光センサーをセットで使用するものだった。勿論、当時は”リモコン”なる物が存在しなかったので、それでも良かったのだが、これが後に世界一のシェアを誇る製品になるとは誰も予想していなかった。
この赤外線発光ダイオードは通常のLEDと異なり、見た目には光らないのでLED製造部では無く、トランジスタ・ダイオード製造部の扱いだった。この様な扱いは佐藤社長の単純な発想で決められたもので、要するに”見た目に光らないモノ”はLEDでは無かった。
このメタル缶(TO-Can)パッケージの製品は、何と阪大卒の松井佐久夫さんが職人芸で製作していた。今の時代であれば「いじめ」とか「パワハラ」だが、当時は”良く有る話”だった。不本意にも”センサ職人”にさせられた松井佐久夫さんは後に佐藤社長と労働安全衛生の問題で対立し、当時の「東洋電具製作所」に組合運動が勃発する火種となった人だった。彼は後に佐藤社長と協議の上「ローム株式会社」を退職し、再度「大阪大学」に戻り、公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)の研究員となった。ここには「SPring-8」と呼ばれる巨大な施設が有り、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設だ。
放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことだ。「SPring-8」では、この放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。「SPring-8」の名前はSuper Photon ring-8 GeV(80億電子ボルト)に由来している。
佐藤社長の大失敗は、この優秀な松井佐久夫さんの能力を生かせなかった事に有る。松井さんの見込み違いは佐藤社長が中国出身者で共産党への嫌悪感が有った事を知らなかった事だった。また、佐藤社長も中国共産党と日本共産党の違いを知らなかったという双方の誤解が招いた事だった。ただの”町工場”だった「東洋電具製作所」を一流企業「ローム」に大変身させる分岐点に松井佐久夫さんの存在が有った。